妻との関係に悩んでいた10年間のこと

結婚して10年が経った。

妻のことは今でも愛しているし、大事な存在だと思っている。でも、いつの間にか夫婦の関係がすごく淡白になってしまった。朝は「行ってきます」、夜は「お疲れ様」と言い合うだけ。悪くはないけれど、何か大事なものが失われている気がしていた。

特に、夜の営みがほとんどなくなった。

理由ははっきりしている。妻が母親としての顔しか見せなくなったから——いや、違う。正確には、俺が妻を「母親」としてしか見られなくなったからだ。家事も育児も完璧にこなす彼女を見ていると、なぜか触れられなくなっていった。

そんな頃、俺は夜な夜な書斎に籠もるようになった。

最初は本当に仕事をしていたけれど、いつの間にか変な検索をするようになっていた。自分でも信じられないような内容を。そして、それを想像しながら一人で——本当に情けない話だ。

その内容というのは、妻が他の男と関係を持つという妄想だった。

「自分は頭がおかしいんじゃないか」と何度も思った。愛しているのに、なんでこんなことを想像するのだろう。罪悪感でいっぱいだった。でも、止められなかった。

不思議なことに、その妄想をしているときだけ、俺は妻を「一人の女性」として見ることができた。母親でも、妻でもなく——ただの、魅力的な女性として。

数ヶ月経つと、妄想の内容も変わってきた。

最初は顔も知らない架空の男だったのが、だんだん具体的になっていった。共通の友人とか、俺の同僚とか。顔も声も知っている誰か。そうすると嫉妬心みたいなものが湧いてくるけれど、それが逆に興奮を増幅させるんだ。

「これって、どういうことなんだろう」

悩んだ。でも、ある時気づいた。俺が求めていたのは、妻の「解放」だったんじゃないかと。母親としての役割、妻としての役割——そういうものから自由になった彼女を、見てみたかったんだと思う。

ある夜、勇気を出して妻に話してみた。

最初は冗談めかして。「もしもさ」と。彼女は驚いた顔をしたけれど、俺は少しずつ、言葉を選びながら話した。日常の会話の中にも、さりげなく混ぜ込んでいった。

「本気で言っているの?」

数週間後、妻がそう訊いてきた。困惑している様子だったけれど、その目の奥に少しだけ好奇心みたいなものを感じた。

「分からない。でも、君が君らしくいられることが一番大事だと思っている」

そう答えた。嘘じゃなかった。

それから時間をかけて話し合った。焦らなかった。俺は仕事で組織改革とかやっているから、人の意識を変えるのには時間がかかると分かっている。妻との関係も、同じだと思った。

そして——ある日、何かが変わった。

詳しくは書かないけれど、その時の妻は、俺が10年間知らなかった表情をしていた。彼女が解放されているのが分かった。俺が「妻」という枠に閉じ込めていた一人の女性が、そこにいた。

不思議なことに、嫉妬よりも感謝の気持ちの方が大きかった。

「ありがとう」と妻が言った。その言葉の意味が、すごく深く胸に響いた。

今、思うけれど。

夫婦の形は、一つじゃないと思う。俺たちが選んだ道が正解だとは言わない。でも、もし同じような妄想を抱えて、「自分は異常なんじゃないか」と苦しんでいる人がいたら、少しだけ聞いてほしい。

それは必ずしも異常じゃないかもしれない。

ただ、大事なのは、ちゃんと話すこと。時間をかけること。そして何より、相手を尊重すること。勝手に進めたら、絶対に壊れる。

俺たちはまだ途中だし、これからどうなるか分からない。でも一つだけ確信していることがある。

この10年間感じていた渇きは、愛が足りなかったからじゃなかったということ。

むしろ、愛していたからこそ、新しい扉を探していたんだと思う。

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